穴があいたバケツには水は貯まらない
私がお世話になっている会計事務所には、事務所内のあちこちにいろんな言葉がパネルに入れて掲げられています。「お客様の目線で考える」「報告・連絡・相談」とか「感謝の気持ちが進歩を生む」といった経営訓的を言葉を数多く見かけることができます。弊社の担当者に聞くと、その会計事務所の所長が様々な研修やセミナーに積極的に参加して、そのたびにパネルが増えてくるそうです。
その中で、事務所内の最も目立つところに掲げられているパネルにはこんな言葉が書いてあります。
それは
「常に新規開拓!」
これも担当者から聞いた話ですが、その会計事務所の取引先は中小企業や、形は法人にはなっていても家族だけで経営している零細企業がほとんどだそうです。そうなると経営の悪化や経営者が高齢になったりして、やむなく会社を閉める場合が年間を通じて結構な数になるということです。
だから所長としては既存の取引先が減少していく中、売上を伸ばすには新規取引先を増やさなければいけない、という強い思いが「常に新規開拓!」に込められているのだと思います。
確かに取引先が減少してくれば、新規開拓しないと売上を維持させることは困難です。
話を歯科医院に置き換えてみましょう。
先生の手元にあるカルテには、相当数の患者さんが存在していますよね。でもその患者さんのすべてが今現在も定期的に来院されているわけではないはずです。もちろん既存の患者さんがいるとしても、転居や病気あるいは死亡などで減少します。その分、新規の患者さんを増やさなければなりません。
とは言っても新規ばかりに力を入れるのは、かなり骨が折れるものです。ここで既存患者さんの流出を防ぐことに見方を変えてみたらどうでしょうか。
例えば、1年間に今の既存患者さんを20%失うとします。こういった状況で、昨年よりも10%売上を上げようとするなら、失ってしまった分も取り戻すために30%もの新規患者さんが必要となります。一生懸命、新規患者さんを集めたとしても、既存の患者さんがどんどん流出してしまっているようでは、穴の開いたバケツで水を貯めるのと同じです。
「一度でも来院された患者さん」を「ずっと通ってもらえるようにする」ことはとても重要なことです。だから新規患者さんを集める前に、既存の患者さんの流出を抑えることに力を注ぐべきです。
そう、バケツの穴を閉じるのです。
既存患者さんをしっかりフォローし、再来院してもらうことの方が、新患患者さんを集めることに励むよりも、効率的ですよね。流出を100%なくすことは不可能ですが、それを最小限に止めることは可能なはずです。
そのためには普段から患者さんとのコミュニケーションを密にして信頼関係を築くことがとても重要なのです。